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特選!ハイボールコラム

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2023.11.30

ハイボールの知識と技術

「タイからアジア、そして世界にハイボール文化を」タイ人が驚く究極の1杯を提供するハイボールバー 「The Japanese Highball Bar 1923 Krung Thep」

タイの首都バンコクに、ハイボール文化の創出を目指して挑戦をする、サントリー傘下の社内ベンチャー運営のハイボールバーがあります。 「タイの若者で連日大盛況!」との噂を聞きつけ、地球の歩き方・タイ特派員が店内の様子やメニュー、バンコクのハイボール文化について取材してきました。

連日大盛況!タイのミレニアル世代が集うハイボール専門店

古くからビジネス街として栄えてきたサラデーン地区。BTSサラデーン駅4番出口からサラデーン通りを南に進み、ソイ1に入ると、赤くギザギザしたユニークな建築が目を引きます。タイの若者に人気のコミュニティモール、「theCOMMONS Saladaeng」(ザ・コモンズ・サラデーン)です。

内部は開放感溢れるモダンな空間で、カフェやタイ料理店などバラエティ豊富な飲食店が出店しています。G階の一角にたたずむのが、ハイボールバー「The Japanese Highball Bar 1923 Krung Thep」(ザ・ジャパニーズ・ハイボール・バー1923 クルンテープ)。トンロー地区の1号店に続き、2023年5月にオープンした2号店です。

「いらっしゃいませ!」と爽やかな笑顔で迎えてくれたのが、現地で店舗経営を担うサントリーの社内ベンチャー、「Being Beyond Borders」のCOOを務める鈴木翔一 さんです。さっそく店内を案内してもらいましょう。

「一番にぎわうのは21:00ごろですね。客層は、タイのミレニアル世代が中心です」(鈴木さん)

日本の伝統工法「組み木」の天井

和モダンな店内は明るく活気があり、棚には琥珀色に輝きを放つウイスキーボトルがずらり。日本の伝統工法「組み木」の天井からは、木の温もりを感じます。

席数は、カウンター席やテーブル席、プライベートルーム(6名)を合わせて50席。

「テーブル席は石材やベルベット、レンガや織物など、タイで調達した様々な素材を使用して変化をつけました」

コースターには、しっぽがふたつに分かれた猫が潜んでいます。

「かつてスコットランドの蒸溜所に、ネズミ駆除で活躍していた猫たちがいて、蒸溜所の守り神として”ウイスキーキャット”と呼ばれていました。その猫をモチーフに、タイ原産のシャム猫と日本の妖怪『猫又』を組み合わせて作った、当店オリジナルのマスコットキャラクターです」

こだわり抜いた究極の1杯を提供

「1923」で提供するジャパニーズウイスキーベースのハイボールは、全部で8種類あります。

「ウイスキー、ソーダ、氷のみのシンプルな飲み物だからこそ、細部へのこだわりを徹底的に追求しています」

グラスに注がれるハイボール

使用するのは、ウイスキーの仕込み水に近い硬度の北海道産の軟水と、純水で作られた透明で溶けにくい氷柱を使った「忍者アイス」。サントリーが開発したハイボールマシーンでグラスに注ぐと、2℃に瞬間冷却された高圧炭酸水とウイスキーがまろやかに混ざり合い、至高のハイボールが完成します。

グラスぴったりに入った忍者アイス

まずは、一番人気の「1923ハイボール」(220バーツ)から。「角瓶」に自家製シロップを少し垂らしてかすかな甘みを足しています。

忍者アイスをうちわで扇ぐ

バーテンダーが、1本氷の忍者アイスをうちわであおぎはじめました。

「冷凍庫から出したての氷は表面に霜が付いて、そのまま使うとハイボールの炭酸が飛んでしまいます。うちわで扇いで表面の温度を下げながら、表面を滑らかにしています」

忍者アイスのハンドカット

氷のハンドカットはまさに職人技! ライブ感が満載です。

「炭酸は冷えれば冷えるほど液体に溶け込むので、その性質を最大限に活かすために、氷はグラスぴったりにカットします」

キンキンに冷えた薄張りのグラスに注ぎ入れられたハイボール。ひと口飲むと程よい甘さで、弾けるようなシュワシュワ感! 爽やかなのど越しです。

ハイボール好きにたまらないのが、「角ハイボール・シグネチャーサーブ」(220バーツ)。ウイスキーの華やかな香りと、キリッとドライな味わいを楽しめます。

上半分にはロックアイス、下半分には忍者アイスを入れる

上半分にロックアイス、下半分に忍者アイスと、2種類の氷を使用するのはなぜかと伺うと…。

「ハイボール好きな方は飲むスピードが速く、大きな塊の氷だとグラスの中から滑り落ちて、歯や唇に当たってしまうんです。その衝撃を緩和するために、上にロックアイスを置いています」

「ウイスキー以外のお酒も楽しみたい」という方には、タイ限定の11種類のハイボールスタイルのカクテルがおすすめ。一番人気は「ゆずハイボール」(380バーツ)です。日本産クラフトウオッカ「白」に、自家製ゆずシロップとゆずジャムが混ぜてあり、フルーティーで飲みやすいです。

次のメニューは、マスカットを贅沢に生絞りした「グリーングレープスハイボール」(420バーツ)。みずみずしくジューシーな味わいが特徴。

当地の観光客にも抜群のウケを誇るのが「知多」をベースにしたトロピカルな「ココナッツハイボール」(420バーツ)。アイスキューブは100%ココナッツウォーターで、溶けても味は薄まりません。かわいいココナッツの殻の容器とは対照的に、アルコール度数は高め。白い果肉はスプーンですくっていただきましょう。

季節限定の「24 Seasons Coctails」は、立春や夏至など、1年を24の節目に分けた「二十四節気」がテーマ。

「24面体の『響』のボトルは24時間や二十四節気を表していて、そのアイデアをカクテルに取り入れました。常夏のタイで、日本の四季や繊細な感性を伝えたいなと。今は秋メニューで、『立秋』や『寒露』など6種類を用意しています」

個性豊かなドリンクメニューを監修したのは、「アジアのベストバー50」で2020年に1位、2023年に2位に輝いたシンガポールのバー「Jiggar &Pony」を率いるバーダイレクター兼チーフバーテンダー・江口明弘さんです。

ハイボールと相性抜群!約40種類の食事メニュー

ロサンゼルスやシンガポールを舞台に活躍してきたエグゼクティブシェフ・原慎二さんが考案した、ハイボールに合う和テイストな食事メニューも充実しています。

「ハイボールはアルコール量が少ないので、基本的にどんな料理にも合います。しかし特に相性がよいのは、揚げ物、スパイシーなもの、出汁の効いた料理など。ハイボールの炭酸が口中の油や辛味を洗い流し、次のひと口を爽快にしてくれます。また元来ウイスキーベースなので、スモーキーな薫製料理にも相性抜群です」

Toro Taku Handroll

「Toro Taku Handroll」(180バーツ)は、マグロやとびこなどの具材がたっぷりと入った手巻き寿司。海苔は炭で炙られ、タコスのようにかぶりつくと、パリッといい音がします。海鮮も新鮮でおいしい!

「いちばんの売れ筋はカツサンドです。じっくり時間をかけて低温調理したお肉は、『厚みがあるのに柔らかい!』と好評いただいています。揚げ物だとミートボールカツ(日本でいうメンチカツ)。それからラーメンも人気で、締めというより単品注文される方が多いですね」

ほかにも、タマゴサンドやスモーク枝豆、鶏出汁が効いたおでんなど、ハイボールとの多彩なペアリングを楽しめます。

「Being Beyond Borders」COO、鈴木翔一さんにインタビュー

鈴木翔一さん

―ご経歴を含め、簡単な自己紹介をお願いします。

2007年にサントリーに入社し、日本で11年、営業をしていました。その後はシンガポールやインドを拠点に、ビームサントリーに出向。今回の新規事業でタイに赴任したのが、2021年4月です。自身のキャリアを振り返ると、東京でスーパーや酒販店、外食チェーン向けの営業をしていたときも、シンガポールやインドでも、ずっとハイボール関連の仕事に携わってきました。

―タイ進出した経緯について教えてください。

Being Beyond Bordersは、「海外にハイボール文化を広めること」をミッションに立ち上がった会社です。店名の「1923」は、日本最古のモルトウイスキー蒸溜所、「サントリー山崎蒸溜所」の建設に着手した1923年に由来しています。

まだハイボールの認知が低いアジア圏で、豊かなハイボール文化を創出したい。その挑戦の舞台として最初に選んだ国が、タイでした。

ターゲットに据えたのは、ミレニアル世代です。タイ以外の候補にシンガポールとベトナムがあったんですが、シンガポールはマーケットのサイズと外食ビジネスを取り巻く環境が厳しく、ビールを中心に酒類が比較的安価なベトナムは若者の購買力も限定的。

一方タイはこの2ヵ国に比べると、雇用を含めて外食ビジネスの環境がよく、購買力のあるミレニアル世代も多いんです。日本のウイスキーの流通状況や日本食文化への理解度なども総合的に判断して、タイに決めました。

1号店の出店場所を「ザ・コモンズ・トンロー」にしたのは、集客力とローカル比率の高さが魅力的だったからです。ただ当時はテナントの空きがなくて、「ハイボール文化を創りたいんです!」とオーナーに直談判したら、ひとつ空けてくれました。「ザ・コモンズ」ブランドが気に入って、2号店もこちらに出店する運びとなりました。

―タイにおけるハイボールの認知度は?

タイでもウイスキーの販売自体は盛んですが、ナイトクラブといった場所で酔うためにショットで飲まれることが多く、ウイスキーをソーダで割って飲むことはしても、“ハイボール”としての認知はほとんどありません。

またバンコクの日本式居酒屋にもハイボールはありますが、「あのジョッキで飲むやつね」くらいの感覚で、その銘柄まで覚えて帰るタイ人は少ないでしょう。

僕らが懸念しているのは、最初の1杯でいい体験ができないと、次回もう飲んでもらえなくなることです。実際弊社でも、過去にウイスキーが売れない時期が続き、飲み方を含めて飲用時のおいしさを追求し始めた2008年頃からV字回復したという歴史があります。だからうちでは、「品質にこだわり、ちゃんとおいしい1杯を出すこと」を徹底しています。

―現在の集客状況や、タイ人の反応はいかがでしょうか?

おかげさまで少しずつ店の認知が高まってきて、平日の夜だと各店舗で平均60〜70名、週末は100名以上の方にご来店いただいています。ハイボールは1日に120杯ほど出ますね。

最近うれしかったのが、ミレニアル世代のタイ人女性がいらしたときです。彼女は以前、バンコクの日本式居酒屋で飲んだハイボールが口に合わず、「もう二度と飲まない」と誓ったのだそう。でもうちのスタッフが、「ここのは全然違いますから、ぜひ」とすすめたところ、「おいしい!」と驚いて、その日のうちに当店のハイボールを全種類飲んで帰られたんです。

ウイスキーが苦手な方にも「1923ハイボールは飲みやすい」と好評で、日本を何度も訪れたことのあるタイの富裕層には「やっとバンコクでもおいしいハイボールが飲めるようになった!」と喜んでもらっています。そんなお声を聞くたびに震えるほど感動するし、手応えも感じています。

―ローカライズの工夫はしていますか?

ハイボールを安売りせず、プレミアムでかっこいい印象を持たせることを強く意識しています。当店のドリンク価格は、日本の約3、4倍。ただの高い酒にならないよう、1杯1杯を作り込むプロセスやこだわりをていねいに伝えています。

また、日本人好みのハイボールがタイで同じようにウケるとは限らないので、多彩なメニューを用意して間口を広げています。

間口を広げるという意味では、フードも同じですね。タイでは、食事をとる場所とお酒を楽しむ場所を切り分けて考える方が多いんです。食事を楽しみたい方にも来ていただけるように、食事メニューも充実させました。

―現地にハイボール文化を普及させるうえでの課題は?

タイは輸入スピリッツの価格が総じて高いので、幅広い層へのアプローチは時間がかかりそうです。日本の一般的なマーケティング手法は通用しづらく、どの層のターゲットを狙うか慎重に見定める必要があります。

また、僕らが提供する商品の価値を正しく伝える難しさも感じています。うちのハイボールは酔うための酒ではなく、生活を豊かにするための酒です。ボトル売りをするとショットで飲まれがちなので、「グラス売り」にこだわっています。

ハイボールの普及への熱い思いが伝わってきます

―人材育成はどのように行っているのでしょうか?

従業員は日本人3名を含め、約40名です。ハイボールの注ぎ方やマシンの操作方法を説明するのは日本語ですら難しいので、動画でマニュアルを作成し、ビジュアルメインで学んでもらっています。

僕たちの想いを汲み、商品のよさを懸命にお客様に伝えてくれるスタッフには、感謝しかありません。

―今後の展望について教えてください。

まずは2030年までに、アジア全域で20店舗を出店したいです。その延長線上で世界にハイボール文化を普及させるべく、「新しい体験と感動を提供し続けること」を肝に銘じ、チーム一丸となり走っています。

実は僕、大学時代はウイスキーが苦手で、「罰ゲームで飲まされる強い酒」というイメージしかなかったんです。でも社会人になって、サントリーの先輩が作ってくれたハイボールを飲んだとき、初めてウイスキーの甘みや豊かな風味を感じて新しい世界が開けたんですよね。

当時の原体験があるから、今やっていることにも自信があります。ひとりでも多くの方にウイスキーのおいしい飲み方やハイボールの魅力を伝え、より豊かな生活を送ってもらいたい。そのために、1杯1杯に魂を込めてお出ししていきます。

地球の歩き方タイ特派員・日向の所感

私はウイスキーに対して、どちらかといえば苦手意識があったのですが、このお店のこだわり抜かれた1杯は仰天のおいしさで、熱い想いとクラフトマンシップの精神にただただ感動しました。認知を広げるだけじゃない、文化を創造するってすごいと思いました。バンコクにお越しの際は、ぜひプレミアムなハイボール体験をしに立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

The Japanese Highball Bar 1923 Krung Thep Saladaeng

アクセス:BTSサラデーン駅から徒歩10分、MRTシーロム駅から徒歩8分

住所:126 The Commons Saladaeng, Unit No. G05, Ground Floor, Soi Saladaeng 1

電話: 02-853-3832

営業時間:17:00~00:00

定休日 :なし

予約: 可

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ジョッキで乾杯-左側 ジョッキで乾杯-右側 ビールの泡