特選!ハイボールコラム
2024.1.9
広島
頂店探訪
今回歩いたのは、広島県呉 [瀬戸内バル五十六]
広島・呉を歩いた人
- 地球の歩き方
- 『広島』プロデューサー
- 福井由香里
広島県呉市生まれ。旅先で風景や食べ物の撮影をすることが大好き。一眼レフが旅の相棒で、趣味が実益を兼ねている。近場は韓国から遠くは南アフリカまで、さまざまなガイドブックの担当経験あり。
軍港として栄えた港の風光明媚な風景
呉は広島駅からJR呉線安芸路ライナーで約35分。広島駅を出て15分ほど経つと右手に穏やかな海が見えてくる。すぐ先に島が横たわり、狭い湾内にはカキの養殖棚がいくつも並んでいる。呉駅到着直前の短いトンネルを抜けると巨大なクレーンが並ぶ港が現れた。呉が造船で有名なことは知っていたが、街と港の大きさに驚く。天然の良港である呉は、古くは村上水軍の一派が拠点とし、明治以降は海軍の鎮守府が置かれたことはよく知られている。海軍の街として繁栄した呉には、広島市より3年早く市電が開通、1909(明治42)年には人口は10万人を突破した。しかし、海軍施設が集中していたため、第2次世界大戦ではアメリカ軍の空襲を14回も受けている。戦後は海上自衛隊呉地方総監部が置かれ、港ではタンカーなどの船舶が建造されてきた。良港のため激動の歴史を乗り越えてきた呉。昔と変わらない風光明媚な風景を眺めながら、その歴史にも思いを馳せたい。
呉で訪れたいスポット
大和ミュージアム
呉駅の南、ショッピングモールまで連絡通路を歩き約5分。ショッピングモールの裏手に建つミュージアムに入ると、同館のシンボル戦艦「大和」(やまと)が現れる。呉で建造された全長263mの戦艦の10分の1スケールの模型には圧倒される。模型が展示されている「大和ひろば」は天井まで吹き抜けとなっていて、間近からでも3階からでも大和をさまざまな角度から眺められる。そのほか、ゼロ戦などの展示とともに、呉の歴史、海軍の歴史、そして大和の建造から海に沈むまでの詳細な歴史など、詳細な展示はじっくり見ると時間がいくらあっても足りないほど。
[DATA]
住所:広島県呉市宝町5-20
アクセス:JR呉駅から徒歩5分
時間:9:00~18:00
定休日:火曜(祝日の場合は翌日)
[公式サイト]
てつのくじら館(海上自衛隊呉資料室)
大和ミュージアムの隣にあり、本物の潜水艦「あきしお」が置かれている。その大きさは圧巻だ。入館は無料で、館内には海上自衛隊の歴史や現在も続く掃海艇の機雷を除去する活動などが展示されている。3階からは「あきしお」の中に入り、実物の潜水艦の内部を見学することができる。一般にはあまり知られていない海上自衛隊の活動を知ることができる興味深い施設。1階にはショップやカフェがあり、あきしおカレーや自衛隊グッズなどが購入可能。
[DATA]
住所:広島県呉市宝町5-32
アクセス:JR呉駅から徒歩5分
時間:10:00~18:00(最終入館17:30)
定休日:火曜(祝日の場合は翌日)、12月29日~1月3日
[公式サイト]
入船山記念館
呉駅の東にある入船山公園の一角に、旧呉鎮守府司令長官官舎などの建物が集まっている。彫像などが立つレンガ造りの坂道を上がった先に入口があり、その横には東郷平八郎の住宅の離れや少し先には旧呉海軍工廠塔時計などが見られる。券売所がある郷土館の2階は関連資料の展示があり、券売所の奥に洋館の官舎が瀟洒な姿を見せている。官舎の裏には、長官と家族の住居となっていた和館部があり、どちらも内部を見学することができる。
[DATA]
住所:広島県呉市幸町4-6
アクセス:JR呉駅から徒歩12分
時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)
定休日:火曜(祝日の場合は翌日)
[公式サイト]
呉で訪れたのはこちらの店
瀬戸内バル五十六
海軍に納めていたソースを味わいながら
「うちでは、やっぱりこれを味わってほしいんですよね」店長の石橋洋一さんが持ってきたのは「イカリソース」と書かれた瓶。かわいらしい錨(いかり)の絵が描かれている。イカリソースの前身は山城屋(やましろや)という店で、1896(明治29)年に本格的なソースとしては国産第1号となる「錨印ソース」発売した。「五十六」のオーナーは山城屋の創業者の息子で山城屋の屋号を暖簾分けし、呉で海軍に食料品などを納めていた。もちろん、イカリソースもそれに含まれていた。「五十六」の店名は、関わりのあった海軍の中でも、戦艦大和にも乗艦していた連合艦隊司令長官の山本五十六に敬意を払い、拝借したものだという。店の1階は日本や世界の酒類を数多くそろえる山城屋酒店。山城屋の屋号はこちらに引き継がれている。「かけすぎかなと思ったんですけど、とってもマイルドですね」福井がイカリソースをたっぷりかけた「呉流串カツ」を食べながら言った。
呉名物、三宅水産のがんす
「そうでしょう」石橋さんは満面の笑みになった。呉流の串カツとは、鶏肉と玉ねぎ。「なつかしいですね」そう話す福井は、実は呉生まれ。すぐに転居して暮らしていたことはないものの、親族を訪ねて呉には何度も来ているという。「がんすにもこのソースはぴったりで、おいしいです」がんすはおもに広島県で食べられている魚肉のすり身にパン粉をつけて揚げたもの。特に呉市の三宅水産は昭和20年代からがんすを製造している老舗。呉のソールフードといえる。サクサクの衣の中にフワフワのすり身が入っていて、揚げ物だが軽い食べ心地。おかずやつまみにもぴったりだが、おやつとしても親しまれている。そこにイカリソースをたっぷりかけて味わってみた。ソースのツンとしたところがないので、食材そのものの味わいを邪魔することもない。そう伝えると石橋さんは自信たっぷりに言った。「これこそ呉のソースですよ」
実はご近所さんだったかも?
続いて出てきたのは「せんじ肉の唐あげ」。せんじ肉とは、豚の胃だという。「昔、呉には屠殺場が多かったんです」豚の胃などは捨てるものだったが、もったいないのでなんとか食べられないものかとつくり出されたのが、この唐あげだと石橋さんは話した。「ほかの店で出しているところは少ないと思いますね」福井も食べるのは初めて。「すごい食べ応えですよ」。確かに、しっかりとした噛み応えがあるものの硬いというほどではない。変なクセはなく、お酒のアテにちょうどいい。ハイボールにもぴったりだ。「あの坂を上がったところ? 農協があって……」「ええ、そうです!」いつの間にか石橋さんと福井の会話が大いに盛り上がっている。まわりの人はぽかんとしているが、どうやら二人の家は想像以上に近い場所にあったかもしれない、という話らしい。「えー、うちの親とか、どこかでつながりがあったかもしれませんよ」と福井。二人の地元談義はしばらく続いた。
店主おススメの頂店ハイボールのアテ!
※値段はすべて税込み
〈おススメ①〉
呉流串カツ 660円
串に刺さっているのは鶏肉と玉ねぎ。このスタイルは呉発祥とされる。サクッとした衣の食感と鶏肉のやわらかでジューシーな口当たりは絶妙。そこに玉ねぎの歯応えと甘みが加わった味わいは新鮮に感じられる。マイルドなイカリソースをたっぷりつけると、素材の旨さはそのままで、よりパンチのあるまとまった逸品となる。
〈おススメ②〉
三宅水産のがんす 580円
呉市の三宅水産が、かまぼこ向けのすり身のあまりに玉ねぎなどを合わせて作ったのが始まりだといわれるがんす。サクサクの衣の中に入ったやわらかなすり身の味はまろやかで、何枚でも食べたくなる。こちらもイカリソースでいただくと、より美味。最近は広島県全体に広がり、かまぼこをしのぐ売り上げになっているという。
〈おススメ③〉
せんじ肉の唐あげ 680円
豚の胃を「煎じ、揚げた」ことが名前の語源といわれる。水分をとばし、素材の旨味を凝縮させた胃をぶつ切りにしたものを唐あげにしていて、最初は硬く感じられるものの、次第に濃厚な脂の甘みが口いっぱいに広がってくる。酒の肴として、日本酒や焼酎、ワインなどにもぴったり。もちろん、ハイボールとの相性が最高だ。
福井の取材メモ
呉名物の「がんす」を食べて「うまいでがんす~」と言うのは広島人のお約束。何を食べてもその言葉が出るほど、ハイボールにぴったりの地元名物が充実したお店でした!「せんじ肉の唐揚げ」はくせになりそう……。
訪れた頂店
- 瀬戸内バル 五十六
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